ピティナ音楽研究所

研究員の活動の紹介:チェルニー《12の前奏曲とフーガ》Op.400について

ピティナ音楽研究所 音楽研究室長・上級研究員の上田泰史氏と、公開録音コンサート等でピアノ曲事典に多大な貢献をしてくださっているピアニスト、秦はるひ氏(ピティナ正会員)が主宰するサロン「アトリエ・アッシュ」の企画で、カール・チェルニーの《12の前奏曲とフーガ》Op.400のCDと楽譜が発売されました。

J. S. バッハが鍵盤楽器のために残した作品の中でも、《平均律クラヴィーア曲集》はバッハの没後、19世紀に至るまで教育者たちの間で脈々と受け継がれてきました。ベートーヴェンの弟子だったチェルニーは、師の導きや自発的な研究によって自分なりのバッハ像を探究し、「チェルニー版バッハ」の制作まで行っています。そんなチェルニーにとって、《12の前奏曲とフーガ》(フーガ演奏教本)作品400は、鍵盤楽器による伝統的な多声書法とモダンなピアノ演奏技法を駆使した練習曲の頂点に位置しています。アール・アンフィニからリリースされたこのCDはアトリエ・アッシュに参加する12名のメンバーが前奏曲とフーガを一組ずつ演奏したもので、演奏家の個性とチェルニーの飽くなきピアニズムへの探究心を聴くことのできる一枚となっています。また、CD制作と連動して、春秋社から楽譜も出版されました。校訂者はチェルニー研究に携わってきた中川航氏で、充実した解説、校訂の正確さもさることながら、美しい装丁が楽譜の魅力をいっそう引き立てています。(上田泰史)
カール・チェルニー「12の前奏曲とフーガ」作品 400 は、アトリエ・アッシュ・アートサロンの共同主宰者である上田泰史氏の著書『「チェルニー30番」の秘密〜練習曲は進化する』(春秋社 2017)の中から見つけた作品である。主に練習曲においてしか知られていないチェルニーという作曲家であるが、この作品には、ピアノという楽器ならではの効果を駆使する秀逸な書法、音楽に深みを与える洗練されたハーモニーの扱い、明晰なコントラストと無限のアイデアが詰め込まれている。19世紀の「前奏曲とフーガ」の白眉であることは明らかだ。チェルニーは、より多くの音楽家たちに注目して欲しい作曲家である。(秦はるひ)

CDはアールアンフィニより、楽譜は春秋社より発売されています。

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