ピティナ音楽研究所

チェルニーに学ぶ!第12回『第四章:即興演奏について②』(Op. 200⑨)

チェルニーに学ぶ!古典・ロマン派時代のピアノ即興演奏
~創造の楽しさを日々の練習に~
第12回『第四章:即興演奏について②』(Op. 200⑨)
執筆者による粗訳
第四章「単一の主題による即興演奏について(ファンタジア風の即興についての第一のカテゴリー)」
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演奏者は、最初のセクションに適した副次的な旋律を見つけることに慣れる必要がある(このテーマは、第一主題から頻繁に展開される可能性があるか、少なくとも第一主題と相容れるものでなければならない)。[上述の既存の楽曲の]模範例は、長調の場合、この副次主題は属調でなければならないことを教えてくれる。一方、短調の場合、この副次主題は最も近い長調または[短調の]属調でなければならない。このアレグロの最初のセクションは、ソナタのように結論的めいた集結部を設けることができる。対照的に、第二セクションでは、最も自由な創造性とアイデアの実現、およびあらゆる種類の転調や模倣などに没頭することができる。ただし、副次主題をもう一度導入して最終的に主調で締めくくる必要がある。抒情的な素材は技巧的なパッセージや他の装飾的音型と交互に用いられるべきで、いずれか一方だけが過剰になると、飽きられてしまう。

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残りのスタイル(アダージョ、スケルツォ、ロンド、変奏曲など)についても、先ほど言及した作曲家たちによって十分な模範例が見つかるため、同様の手順で進めるべきである。
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厳格な意味でのフーガの構築には、当然ながら通奏低音の知識とあらゆる対位法の技術が不可欠である。しかし、さらに多くの優れたフーガを指に覚え込ませ、可能であれば記憶しておかなければならない(その中でも、J. S. バッハの『平均律クラヴィーア曲集』や他の作品、そしてヘンデルのフーガは最高峰のものである)。一方、より自由で現代的な様式によるフーガの[即興的な]展開では、例えばモーツァルト『魔笛』の序曲や、彼のハ長調交響曲[第41番 K. 551(ジュピター)]の終楽章などが、参考となる模範例となる。
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プレイヤーが、各主題をあらゆる様式で即興的に演奏するコツをようやく身につけたなら、複数の様式を一つのファンタジア内で融合させることが容易になるだろう。例えば、まずアレグロから始め、決まった長さだけ発展させてゆき、その後アダージョやアンダンティーノに移行し、フーガのセクションや第1章で説明されたような転調する部分を織り交ぜ、活気あるロンドで結ぶことができる。この手順により、単一主題に基づく一曲のファンタジアが、秩序立った全体性があり、確固たる統一感と独自の性格がある作品として完成する。
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あと、このようなファンタジアのような即興演奏が最も困難なものであることはもはや秘密ではない。これまで議論されてきたことからも、主題をすべてのオクターブにわたって永遠に、飽き飽きするほど繰り返し、鍵盤の間を訳もなく行き来するだけでは、効果的なファンタジアには程遠いことがお分かりいただけるだろう。この使命を完全に果たすためには、卓越した才能と多大な研究の組み合わせが不可欠である。これは、一般の聴衆の楽しみのためにも、目利きの愛好家の満足にもなる(この様式はまさにそのために適している)。

 

参考資料:ベートーヴェンはこのファンタジアのような即興演奏の様式において、比類ない存在であった。彼自身は、自身の楽想と和声の豊かさ、そして最も芸術的な[即興の]展開の崇高さと一貫性を、文字の形で再構築することはほとんど不可能だった[訳註:本人による即興の手引書などは残されていない、の意]。それでも、彼は自身の作品の中でもこの様式で書かれた二つの輝かしい記念碑的楽曲を残している。すなわち、管弦楽と合唱のためのファンタジー 作品80、および最後の交響曲 作品125のフィナーレである。これらの両作品では、単一の楽想が最も多様な手法を通じて展開されている。さらに、J. S. バッハの『フーガの技法』も、この様式における非常に特筆すべき例と言えるだろう。

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ここではいくつかの例を参考として提示しているが、完全に完成された模範例を提示する意図はない。この場合、手引書での説明に適しているのは、基本的な楽想の展開を概略的に示した基礎に過ぎず、そのため、これらは常に演奏者の指針として機能し得る。また、必要に応じて詳細な展開が必要な箇所を、ここから下の部分に示しておく。こうした例に、学生は自身で挑戦する必要があるだろう。

以下のものを主題として取り上げる:

譜例7

この主題は、短い前奏の後ですぐさま効果的に入ってきて、聴き手にとって明確に際立つものである。

一つの主題による第一のファンタジア
(長大なファンタジアなので、割愛し閲覧可能なリンクを掲載します) https://archive.org/details/CzernySystematischeAnleitungZumFantasierenOp.200/page/n43/mode/2up(最終閲覧:2025年5月31日)

注:この主題が簡潔であるため、主題が頻繁に繰り返される場合は、指定された箇所で織り交ぜられた主題を発展させた華麗なパッセージが単調さを自然に緩和し、統一感をもってより効果的にまとめ上げるだろう。さらに、華麗なパッセージの後(ここでのように)に再びリテヌートを導入することは、必ずしも望ましいわけではない。ダイナミックで前進感のある終止部の方が、しばしばより効果的である。

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以下の例は、先程のテーマ(反行形で演奏された場合)との類似性が意図された主題を基にしている。
前奏は不要だが、ここではあえて前奏から始めている。

 

一つの主題による第二のファンタジア
(長大なファンタジアなので、割愛し閲覧可能なリンクを掲載します) https://archive.org/details/CzernySystematischeAnleitungZumFantasierenOp.200/page/n51/mode/2up(最終閲覧:2025年5月31日)

これらの例は、学生が基本主題の中に潜む多様な反行や展開の可能性に気づくのに十分である。

本コラムはここまでにします。次回コラムでは、この章で登場し、本コラムで割愛した譜例、そして2曲のファンタジアについての分析を行いたいと思います。それでは。

執筆:菅沼起一

京都市出身。東京藝術大学音楽学部古楽科(リコーダー)を経て、同大学院修士課程(音楽学)を修了。大学院アカンサス音楽賞受賞。同大学院博士課程在籍中、日本学術振興会特別研究員(DC1)を務める。バーゼル・スコラ・カントルム(スイス)音楽理論科を経て、フライブルク音楽大学(ドイツ)との共同博士課程を最高点(Summa cum laude)で修了し博士号を取得。スコラ・カントルムで記譜法の授業を担当するほか、ルドルフ・ルッツ指揮J. S. バッハ財団による演奏会シリーズに参加するなど、リコーダー演奏と音楽学研究の二足の草鞋を履いた活動を行なっている。2019~20年度ローム・ミュージックファンデーション奨学生。2021年度日本学術振興会育志賞受賞。2024年度より京都大学にて博士研究員(日本学術振興会特別研究員PD)、洗足学園音楽大学非常勤講師、ピティナ音楽研究所協力研究員。

菅沼起一
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