ピティナ音楽研究所

チェルニーに学ぶ!第20回『第七章:変奏曲について』(Op. 200⑭)

チェルニーに学ぶ!古典・ロマン派時代のピアノ即興演奏 ~創造の楽しさを日々の練習に~
第20回『第七章:変奏曲について』(Op. 200⑭)

 みなさま。こんにちは。

 さて、今回もチェルニーのピアノ教則本『ピアノで弾くファンタジーへの体系的手引き Systematische Anleitung zum Fantasieren auf dem Pianoforte Op.200』(n.d. [1829])の続きを読んでゆきたいと思います。今回は第七章全体を見てゆきます。

 第七章は、変奏曲です。チェルニーはこれを第四のカテゴリーとしていますが、ここで復習のためにこれまでのカテゴリーを復習しましょう。そもそも、このカテゴリーとは、ピアノの即興演奏 fantasieren(それも、短い前奏曲や既存曲に付けるフェルマータやカデンツァではなく、丸ごと一曲を即興する類のもの)にどのような種類があるか、ということでした。

 チェルニーの作品200の中には、このカテゴリーとして以下のものが書かれています。

  • ①単一主題によるファンタジア
  • ②複数主題による自由なファンタジア
  • ③ポプリ
  • ④変奏曲←本章
  • ⑤長い音符を用いる様式、またはフーガの様式によるファンタジア
  • ⑥カプリッチョ
執筆者による粗訳
第七章「変奏曲について(第四のカテゴリー)」
1

 主題を変奏すること——すなわち、音型や装飾によるもの、あるいはそれに基づく旋律を用いた新しく、しかし類似した和声によるもの——によって新たな魅力で彩る技芸——これが実際に変奏曲の本質である——は、音楽技芸の領域において最も古い形式の一つである。J. S. バッハはすでに(『30の変奏曲[ゴルドベルク変奏曲]』において)にこの種の模範を創出し、それは今日に至るまで超えられていない。しかしながら、この形式は、一世紀以上にわたり生み出された無数の作品群とは別に、ほぼ全ての作曲の形式にとって本質的なツールとしても機能している。ソナタ(形式)、アダージョ(楽章)、ロンドにおいて、また四重奏曲や交響曲においても、主要主題や副次主題の再現は、慣例的に変奏されるのである。*

* [チェルニー本人による脚注]:例えばベートーヴェンの英雄交響曲の葬送行進曲や、あるいは彼の第七交響曲の(第一楽章:アレグロの)第二部で主題が興味深い形で変奏して再登場するもの、これらはただ非常に美しい変奏である。J. ハイドンやモーツァルトの作品にも同様の例が頻繁に見られる。協奏曲でさえ、その大部分は先行するトゥッティのより自由な変奏に過ぎない。

2

 変奏においても、ファンタジア(即興)と同様に高度な技巧を身につけることが不可欠である。なぜなら、まず一方で、こうした変奏の技法を用いる機会が、前述のあらゆる即興形式において頻繁に生じるからである。他方では、演奏者が特定の主題に基づく完全な変奏曲を一から即興しなければならない状況が実際に発生しうるからである。したがって演奏者は、この様式においても十分な訓練を積んでいなければならない。

3

 変奏には、美しい旋律を持ち、転調が少なく、均等な長さの二つの楽節から成り、明確なリズム的特徴を持つ主題が適している。

4

 演奏者が変奏の即興で駆使できる技法は無数にある。例えば:

  • ①あらゆる装飾やフィグールの方法を、三連符、六連符などで、右手だけでなく左手でも、あるいは両手同時にでも用いること。ただしこの過程で、主題の旋律、あるいは少なくとも和声進行は核となる部分において保持されねばならない。
  • ②あらゆる種類のトリル、装飾などにおいて。
  • ③カンタービレにおいて。ここでは主題のバス声部と和声から新たな旋律を作り出すことが可能である。
  • ④厳格様式(=対位法的な様式)において。ここでは、主題におけるより多くの和声の変化が上声でもバス声部でも保持することができる。
  • ⑤適切な主題を用いればカノン、フーガなどにもできる。
  • ⑥テンポ、拍子、調性の変化において。例えばアダージョとして、ポロネーズとして、ロンドとして、そしてフィナーレにおけるより自由な展開などにおいて。
菅沼のコメント

変奏曲の大事なことは、(当たり前ですが)変奏が主題の変奏である(=主題と何らかの関連性を持っている)ことが一聴して分かる、ということです。これを実現するために、旋律や和声を主題と一致させる必要がある、とチェルニーは説明しています。一番シンプルな変奏はバスを同じにしておき、右手の旋律の形を変えることですね。

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 練習のために、以下は単純な主題の前半部分とさまざまな変奏の例であり、学習者が完成させる必要がある(例47)。

 この第二部(=後半部分)は簡単に作曲できるだろう。

菅沼のコメント

第六変奏までは前述の変奏手段①で書かれていた連符が用いられています。

NB:単調さを避けるため、同様のフィギュレーションは変奏全体で保持する必要はない。

菅沼のコメント

12変奏までは32分音符を用いたフィギュレーションです。

18変奏までは「跳躍進行と華麗なパッセージ」を用いたものと書かれています。

24変奏まではカンタービレな、あるいは模倣的な様式での変奏が書かれています。25変奏以降は、短調(そしてアダージョ)にしたヴァージョン(25、26変奏)、マーチ(27変奏)、フィナーレ(最終変奏、29変奏)、エコセーズ(30変奏)、ワルツ(31変奏)、ポロネーズ(32変奏)と続きます。

 このように無限である。

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 ポプリに変奏を加える場合、二、三箇所あればそれで十分である。さもなければ、ポプリに求められる多様性が損なわれる。ただし、変奏そのものだけを即興したいのであれば、その数に制限はないが、華やかで活気ある部分と静かで重厚な部分が絶えず交互に現れること、作品が長ければ長いほど、装飾がより面白みがあり輝かしいものであること、そしてフィナーレが適切に労作されていることに注意しなければならない。

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 優れたピアニスト(フンメル、モシェレス、カルクブレンナー、リースら)による模範となり得る変奏曲の数々は今や膨大であり、演奏者はこれらの中から最大限の選ぶことができる。この種の作品を数多く知り、可能な限り深く学ぶほど、この領域における演奏者のファンタジーと独創性は研ぎ澄まされ、発展するであろう。

 内容の豊かさと教育的価値が、その楽曲の輝かしさに劣らず高い作品として、以下を挙げる:


執筆:菅沼起一

京都市出身。東京藝術大学音楽学部古楽科(リコーダー)を経て、同大学院修士課程(音楽学)を修了。大学院アカンサス音楽賞受賞。同大学院博士課程在籍中、日本学術振興会特別研究員(DC1)を務める。バーゼル・スコラ・カントルム(スイス)音楽理論科を経て、フライブルク音楽大学(ドイツ)との共同博士課程を最高点(Summa cum laude)で修了し博士号を取得。スコラ・カントルムで記譜法の授業を担当するほか、ルドルフ・ルッツ指揮J. S. バッハ財団による演奏会シリーズに参加するなど、リコーダー演奏と音楽学研究の二足の草鞋を履いた活動を行なっている。2019~20年度ローム・ミュージックファンデーション奨学生。2021年度日本学術振興会育志賞受賞。2024年度より京都大学にて博士研究員(日本学術振興会特別研究員PD)、洗足学園音楽大学非常勤講師、ピティナ音楽研究所協力研究員。

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