チェルニーに学ぶ!第21回「第八章:長い音符を用いる様式、またはフーガの様式によるファンタジア」(Op. 200⑮)
みなさま。こんにちは。
さて、今回もチェルニーのピアノ教則本『ピアノで弾くファンタジーへの体系的手引き Systematische Anleitung zum Fantasieren auf dem Pianoforte Op.200』(n.d. [1829])の続きを読んでゆきたいと思います。今回は第八章全体を見てゆきます。
第八章は「長い音符を用いる様式、またはフーガの様式によるファンタジア」というタイトルが付いています。チェルニーはこれを第五のカテゴリーとしていますが、ここで再度これまでのカテゴリーを復習しましょう。そもそも、このカテゴリーとは、ピアノの即興演奏 fantasieren(それも、短い前奏曲や既存曲に付けるフェルマータやカデンツァではなく、丸ごと一曲を即興する類のもの)にどのような種類があるか、ということでした。
チェルニーの作品200の中には、このカテゴリーとして以下のものが書かれています。
- ①単一主題によるファンタジア
- ②複数主題による自由なファンタジア
- ③ポプリ
- ④変奏曲
- ⑤長い音符を用いる様式、またはフーガの様式によるファンタジア←本章
- ⑥カプリッチョ
この技法に必要な学習事項については既に第四章(第11節)で論じているため、ここではこの様式による即興演奏が三つの異なる方法で可能であることを補足するのみとする。
第一に、多くの和音進行とそれらから生じる転調の連続によって(例48)。
第二に、模倣によって。これは、ある音型をあらゆる声部、音域、オクターブで繰り返すことである(例49)。
第三に、自由形式または厳格形式によるフーガで(例50)。
当然ながら、これら三つの手法は組み合わせて用いることも可能である。
第一の方法は、より長い展開[訳註:音の持続?]を伴うため、まさにオルガンでのみ実現可能であり、したがって本論では限定的にしか扱われない。第二と第三のタイプはピアノフォルテとオルガンの双方で同等に有用であり、フーガに関しては、装飾的な音型が付き流麗かつ陽気なタイプは主にピアノフォルテ特有のものである。なぜなら、この種はオルガンでは不器用に演奏され、効果的になることは稀だからである。
以下に各手法の簡潔な例を示す。
ここで一つ補足となるのですが、そもそもこの章のタイトルにある「gebundenen(訳では「長い音符を用いる」に相当)」という言葉は本来「結ばれた・束縛された」(「結ぶ binden」という動詞の過去分詞形)という意味があり、音楽では「レガートで/音が繋がって/フレットが付けられた」という意味で用いられます。なので、これは例48にあるように、二分音符より長い白玉音符を用いた書法になります。オルガンが適していると述べているのは、ピアノでは音が減衰してしまうからに他なりません。この書法も伝統があるもので、18世紀には特に教会音楽(声楽曲やオルガン曲)で古様式と呼ばれ用いられていました。17世紀初頭の鍵盤音楽には、イタリア語で「Durezze e ligature」と題された、同様に長い音符を用いる楽曲がたくさん残されていますが、この「ligature」というイタリア語はまさにドイツ語の「gebundenen」に相当します。現在でもイタリア語ではスラーのことをligaturaと呼ぶそうです。
例:トラバーチ〈Durezze e ligature〉(1603)冒頭※注釈1
そもそも、これは16世紀、ルネサンスの多声音楽(ポリフォニー)が二分音符以上の白玉音符を用いた模倣的な様式だったことに由来するもので、音楽様式がバロック、古典派へと推移したのちも伝統的に教会音楽の書法として大事にされてきました。
話は戻って、チェルニーの3つの譜例を見てみましょう。1つ目の譜例(例48)は先述の長い音符を用いるスタイル、2つ目と3つ目がピアノにより適したフーガによるスタイルです。いずれも冒頭で提示された主題をどんどん受け渡していく模倣的な様式で書かれていますが、2つ目で用いられている装飾音や、3つ目のくさびがついた跳躍進行、この辺りがチェルニーの言うところの「装飾的な音型が付き流麗かつ陽気なタイプ」ということなのでしょう。
例48〜50
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